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大分地方裁判所 昭和56年(わ)467号 判決 1982年2月09日

(被告人)

1

本店所在地 大分市大字小中島八七二番地の一

商号

鶴崎林商運輸株式会社(変更前の商号、鶴パ運輸株式会社)

代表者氏名

貞森治之

代表者住居

大分市金池町三丁目一番八号

2

本籍 大分市金池町三丁目三、一一五番地

住居

同市金池町三丁目一番八号

会社役員

貞森治之

昭和一四年二月一日生

(被告事件)

法人税法違反

(出席検察官)

岩永建保

主文

被告法人鶴崎林商運輸株式会社を罰金一、〇〇〇円に、被告人貞森治之を懲役一年にそれぞれ処する。

被告人貞森に対し、この裁判が確定した日から、三年間右刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告法人鶴崎林商運輸株式会社(商号変更前の鶴パ運輸株式会社)は、大分市大字小中島八七二番地の一に本店を置き、チップ販売及び運送業を営むもの、被告人貞森治之は、同法人の代表取締役として同法人の業務全般を統括しているものであるが、同被告人は、同法人の業務に関し、法人税を免れようと企て、同法人のチップの仕入を架空に計上しあるいは経費を水増し計上し、これにより得た資金を実在者の名義を借りて定期預金に預け入れる等の不正手段により、所得の一部を秘匿したうえ

第一  昭和五三年一月一日から昭和五三年一二月三一日までの事業年度において被告法人の所得金額が三七、二三〇、四四〇円、これに対する法人税額は一四、〇〇一、一〇〇円であるにもかかわらず、昭和五四年二月二八日大分市中島西一丁目一番三二号所在の所轄大分税務署において、同税務署長に対し、所得金額四〇〇、二五七円、これに対する法人税額は六一、一〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって、不正の方法により、同法人の右事業年度の正規の法人税額一四、〇〇一、一〇〇円と右申告税額との差額一三、九四〇、〇〇〇円を免れ

第二  昭和五四年一月一日から昭和五四年一二月三一日までの事業年度において被告法人の所得金額が六二、五五五、〇六三円、これに対する法人税額は二四、二一八、一〇〇円であるにもかかわらず、昭和五五年二月二九日前記大分税務署において、同税務署長に対し、所得金額三、六五五、九三四円、これに対する法人税額は一、〇六三、九〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって、不正の方法により、同法人の右事業年度の正規の法人税額二四、二一八、一〇〇円と右申告税額との差額二三、一五四、二〇〇円を免れ

第三  昭和五五年一月一日から昭和五五年一二月三一日までの事業年度において被告法人の所得金額が七七、二七三、三〇五円、これに対する法人税額は二九、九七〇、七〇〇円であるにもかかわらず、昭和五六年二月二八日前記大分税務署において、同税務署長に対し、所得金額一七、一八一、〇二四円、これに対する法人税額は五、九三三、九〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって、不正の方法により、同法人の右事業年度の正規の法人税額二九、九七〇、七〇〇円と右申告税額との差額二四、〇三六、八〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示事実全部につき

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する供述調書

一  被告人の大蔵事務官に対する各供述調書

一  大蔵事務官内田繁作成の「脱税額計算書」(三ケ年分)

一  同人作成の「脱税額計算書税明資料」

一  貞森征子の検察官に対する供述調書

一  同の大蔵事務官に対する各供述調書

一  登記官衣笠隆雄作成の登記簿謄本二通

一  押収してある法人税決議書(昭和五七年押第五号の1)、昭和五三年度から同五五年度の総勘定元帳三冊(同押号の2ないし4)、同チップ売掛買掛金台帳三冊(同押号の5ないし7)

(法令の適用)

判示各所為につき 法人税法一五九条一項、被告法人については更に同法一六四条一項

刑種選択 被告人貞森に対し懲役刑のみを選択

併合罪加重及び罰金額の合算につき 被告人貞森につき刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(犯情の最も重い判示第三の罪の刑に加重)

被告法人につき四八条二項

執行猶予につき 被告人貞森に対し刑法二五条一項

(量刑の理由)

被告法人は、昭和五一年ころからチップの仕入を架空計上するなどして所得の一部を秘匿し、法人税を過少申告していたもので、本件起訴はそのうち昭和五三年度から同五五年度の三期にわたり合計約一億五千五百万円の所得をほ脱し、約六千百万円の法人税を免れたというものであって、多額の脱税を行ったものといわざるを得ず、脱税の動機について、不況下に生きる中小企業としての会社の体質強化、経営の安定化を図るためなど縷々述べるけれども、結局はこれらを是認できるものではなく、国民の税負担の公平感を損うもので、その刑事責任は重大である。

しかしながら被告法人は、本件が発覚して後、昭和五六年九月四日から同年一二月二九日までの間に修正申告法人税、重加算税など過去五ケ年分合計約一億七千六百万円余の納付を済ませていること、被告人貞森は、これまでさしたる前科もなく、本件審理においても事実を素直に認め、反省の色顕著にして再犯のおそれもなく、その家族や従業員のことその他諸般の事情を考慮して、それぞれ主文のとおりの刑を量定した。

よって主文のとおり判決する。

(裁判官 武部吉昭)

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